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「電脳塾」の趣旨は、交通の利便な県都の駅前の一等地に居場所を作ること。それによって車もなく交通費の少ない子でも、全県下から来やすくすること。僕たちがパソコンを教えることで居場所を維持し、可能であればパソコン講師と“居場所”スタッフになって働く場を作るというものでした。それは「麦の根」の課題でもありました。

不登校の問題としては、居場所や学び(学校の勉強ではなくて)の場所が少ないことと同時に、働く場所が少ないということがあります。僕や僕の周りの友人たちも、不登校ということや学歴のないことで、仕事を落とされた経験が何度もあります。せっかく自信をつけても、働く場所が少ない。また職種も少ない。そのために自分に合わない仕事をして、クビになる。「自分はやっぱりだめだ」とますます落ち込む人も多い。また、出社拒否になる人もいます。家に閉じこもりがちな人にも、自分のペースで働きやすい場は現在はありません。それが今、閉じこもりが増える原因でもあるでしょう。

そこで「麦の根」にかかわる一部の青年たちの間で、自分たちのペースで働ける場を作ろうという企画が起こりました。「麦の根」では、パソコンを3年間やった実績があります。また不登校だったので、その経験があれば不登校の“居場所”に来る子たちとも親しくなれるのではないかとの思いで、始められました。この試みをマスコミが宣伝してくれました。

そこでうれしい誤算がありました。一般の大人にも、パソコン教室で学びたいという人が多く、大人のパソコン教室を作ることになったのです。それで、駅前の“居場所”代を捻出することができました。また、学校に行っている子も放課後来ます。不登校と学校へ行っている子が、「電脳塾」で、チャットではありますが自然に交流するようになりました。もちろん、不登校者専用の“居場所”としては、「麦の根」があります。「電脳塾」に合わない子は「麦の根」へと、少しですが選択肢が増えました。また、「麦の根」では今まで約束を平気で破っていた人も多かったのですが、その人たちがスタッフになると、不思議と時間どおりに来てくれます。心配していたのですが、運営に支障が出たことはありません。お陰で、人件費や場所代名目の補助金の切れた今期も、なんとか運営できています。

 

これからの課題と展望

しかし、課題は山積みです。「麦の根」も「電脳塾」も財源は主に補助金頼みです。毎年、当てがあるものではないのです。これでは活動に支障をきたします。現に今年の“居場所”は、僕たちが「電脳塾」に来る大人に教えることで稼げました。が、スタッフの人件費は捻出できませんでした。

悩んで自ら来る子どもからは金を取りたくはない。スタッフには無給で頼んでいます。けれど、財源になりうるパソコン教室やパソコン関連の仕事はあります。でも僕を含め、メイン講師で教えられるまでにはスタッフは育ってはいません。パソコン教室でサブとして実践はしていますが、どうしても年単位の教育期間と時間が必要だからです。なんとか2年をしのげれば、自分たちのペースと時間配分でパソコンを教えることで稼ぐ。利益の何パーセントかを“居場所”の運営に還元する。不登校者の新しい仕事システムを現在考えているところです。

 

 

 

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