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だからこそ、ひとりで苦悩する時間が長く、自信をつけるまでに時間がかかりました。もちろん「麦の根」では、急いで進学や就職することばかりが良いことだとは思っていません。

それでも、まだ来られる子は、外へ動けるような気力や親の支援があり、恵まれた環境の子ばかりです。“居場所”に来られない子のほうが、現実には圧倒的に多い。僕の知る限り、不登校で傷ついた人は、極端に自己評価が低いのです。なぜなら多くの子は大人と違い、学校と家庭が社会のすべてです。広い社会を知ることもできない。学校へ行かなくなることで、それまで認められていた自分が急に「おまえはだめだ」と言われるようになります。大人の価値観で、社会やクラスの仲間からも自分を否定されます。責められ続けた子は、簡単に自信を喪失します。

それでも子ども自身はなんとか、学校や社会に合わせようと努力します。でも学校へも社会にも出られず、行くことができないという現実があるのです。不登校最中の彼らと一対一で話すと、「自分なんて生まれなければよかった」という言葉を聞くことがあります。

 

インターネットで人間関係の修復

だからこそ、家で苦しむ子には、だれにも邪魔されず自分を見つめ、体や心を休める時間が必要です。家庭で休め、それが親にも保証されれば、気力に満ちる時が必ず来ます。家にいても、“退屈”になります。多くの経験者は、外に出るか出ないかの時の体験をそう語ります。けれど、外に出る気力はまだない。面と向かって会った人に否定されるのが怖い。しかし人恋しい。

そんな、外にも出れず孤立した子や、古い地域にこそインターネットが使えます。インターネットなら匿名で、家に閉じこもった人や、県内でも遠方で“居場所”に来られない仲間との交流ができます。メールや、多人数と会話できるチャットもあります。自分の意思を人前で話すのが大変なメンバーでも、ホームページを作ることによって、自分の思いをいろんな人に、24時間リアルタイムに伝え交流することができます。自分のペースで、断絶した人間関係の修復ができるのです。

悩みを相談する掲示板も、「麦の根」にはあります。掲示板には、全国からの相談が書き込まれます。そのつど、麦の根メンバーが相談に答えるシステムを作りました。もちろん不登校体験時の思いが似ているからこそ、書き込む人の支援や参考になればという思いからです。こう書くと、「素人が危険ではないか」と言う方もいられるでしょう。

確かに「麦の根」のメンバーには学歴もなく、臨床心理学を学んだ人もいません。専門的にどう対処してよいかわかるはずもありません。僕たちも、そこまでは踏み込むことはしていません。しかし、知識はないが、僕たちには経験があります。例えば、「麦の根」では初めて来る子に年齢を聞く時、だれも「何年生?」という聞き方をしません。みんな自然に「何歳」と聞いています。不登校で苦しんでいる人にとって、学校を思い出させることを言われるのはつらいことです。もちろん、知識に裏打ちされた実践も大切ということはわかっています。今までの活動を通して出会った精神科医や弁護士の方々にも、スーパーバイザーとして協力してもらっています。

 

 

 

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