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以上の点を考えると、長期間の説得は不可能であろうとの判断を下した。しかし、実態は不明であるので、Yさんの周辺を知るためにも、一、二度の調査が必要と思い、当の地方都市へ出向いた。

父親とは、駅前の喫茶店で待ち合わせ。5分ほどして、1本のゴルフクラブを手にした父親が現れた。なぜ、ゴルフクラブを持参しているのかを問うたところ、

「ゴルフの練習に行くと息子に言って外出して来た」

とのこと。また、現在の状況を聞くと、

「少し荒れている。姉が学校帰りにアルバイトをしたいと言ったからではないか。当然許可はしなかったが、どうも息子の心中は穏やかではない様子」

「姉に対しても暴力的行為が激しくなっている」

と悲痛な様子。そこで、娘さんの人権のためにも、“一発出し”を決意。

 

強引にタメ塾へ

1週間後、再度父親と待ち合わせ、若干の打ち合わせの後自宅へ。父親が鍵を開けるのと同時に、私と他の2名のスタッフが突入。その眼前には、おびえた母親と、ぼう然とした本人。何にもまして我々の眼を奪ったのは、水着姿で後ろ向きにさせられ、座っていた姉の姿。M君本人の手にはボールペン。姉の水着姿の背中の肌の部分に、ボールペンで何やら絵を描いていたらしい。素早く、姉と本人の間に私が割って入り、本人と真正面から対峙。

2時間ほどの“説得”で車に乗り込む。暴れるなんて皆無。

タメ塾に来る道々も、来てからも妙に素直で、“ハイ”と返事をする。どうも危なさそうとの予感が…。次の日、やはりM君の姿が見えない。すぐさまYさん宅へ私と2名のスタッフが急行した。“報復的行為”も予想されたからだ。

2日後、M君は母親の実家へ姿を現したとの報。すぐに母親の実家へ。父親と祖父の説得で、再びタメ塾へ。その日の早朝3時頃、とある警察署から電話。あまりにもお腹が空いて交番にお金を借りに来たが、様子が変なので保護。父母に連絡したら、タメ塾に任せてあるので、ということで連絡をしたとのこと。すぐさま警察署へ。本人は疲れているが、元気な様子。

タメ塾に戻り、3時間ほど話をする。

・M君が不本意なことは理解する。

・しかし、母と姉を人質にとったり、乱暴をしたりすることは承諾できない。

・何もせず日々をつぶすより、なんでも良いから楽しそうなことをやろう。

・今から2週間タメ塾にいてみて、どうしても合わないのであれば、父母を含めて話し合い、他の方法を見つけよう。タメ塾に必ずしもいなくてよい。

以上の点をお互いに確認、その旨を父母にも連絡。いずれにせよ、2週間後には、本人と私と両親との話し合いを持つことにした。

 

塾での自由な2週間

当初M君は、刑務所というか収容所というか、日常が強烈に管理され、強制的に物事をやらされ、ロボットのように動かされるような“場”を想像していたらしい。

 

 

 

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