日本財団 図書館


自然体験活動を通じて社会性を回復した中学生

《フリースクール英明塾》川合雅久

 

不登校期間 中学2年4月〜 13歳男子

 

《家族構成》

129-1.gif

 

当事者について

家庭環境に関しては、通常の家庭とほとんど変わらない。当事者は兄と違って、自分をなかなかうまく表現できない。言葉を発することがほとんどない。家の中では、必要最少限の話はする。学校では、教師やクラス仲間も、当事者が発する声を聞いたことがない。教師が授業で質問しても答えないうえ、自分の世界に入り込み、周りとかかわりを持とうとしない。会社員の父は、息子の成長を温かく見守っている。母親は、学校で彼が言葉を発しないことや、そのことによってのいじめを心配。案の定、中学になるとかなりのいじめに会ったため、より自分だけの世界に引きこもる。

中1の夏休み以降から、学校に行くことを渋り始める。そして、2年に進級するとその4月には学校には行かないと決心し、不登校となる。家でテレビゲームの世界だけに引きこもる。勉強に関しては、かなりの遅れが見られる。勉強には、全く興味を持っていない。感情も見せることはない。

 

―経過―

他者とはいっさいかかわらず

不登校になってから相談を受ける。母親が地区にある「不登校親の会」に顔を出した時、当フリースクールに相談するようにアドバイスされ、また中学の不登校担当教師からもここの存在を知らされて訪れる。

最初、母親だけが場所を確認しに来て、その後彼といっしょに面談しにやって来る。いろいろ話をした結果、即入会を決定し、彼も来てもよいとうなずく。翌日から毎日通ってくるようになる。

しかし、朝からあいさつもなく、ひと言も口を開かず、ゲームだけをしている。ほかの子どもたちがいくら声を掛けても、返事もしないし、いっさいかかわりを持とうとしない。ただし、塾長の私の言葉だけには反応を見せる。

自分のことを理解してくれる唯一の人間として、子どもたちから信頼されることが心を通ずることになる。また安心感を得ることになり、聞く耳を見せてくれる。

彼は、子どもたちのだれがあいさつしても、声を掛けても振り向いてくれないため、子どもたちの中で、彼のしたいようにさせようという暗黙の了解ができる(通常は、ゲームを1時間やると他の人に譲り、お互いにマナーを守っているのだが、彼にはそのルールをはずしてくれた)。

 

129-2.jpg

教室にて。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION