とにかく海岸のすぐそばが山また山で、平野なんて全然ないんです。だから、この人たちが生きていくためには、海に出るしかないというのが一目で分かります。特に、伊万里から松浦市に入る辺りになりますと、道路のすぐ下が海になっています。車の足元に波が寄せていますので、走っていると恐ろしいです。その後、松浦市に入ると海岸に堤防もないんです。晩御飯の前にちょっと竿を持って来て、家の縁側から晩飯のおかずの魚が釣れるんじゃないかと思えそうな家が並んでるんです。台風の時は、この人たちはどうするんだろうと思いました。その後、また試しに行ってみたら、今度はそこに綺麗な堤防ができていましたので、ちょっとがっかりしました。十年ぐらい前までは、そういう眺めが見えました。あんな眺めはちょっと珍しいでしょう。そういう人たちですから、海に出て、生業として海賊をせざるを得なかったんです。
この海賊で一番迷惑したのは朝鮮です。当時の李朝、李朝の前の高麗が一番迷惑したでしょう。ただ、高麗が困っていた頃の倭寇というのは、そんなに残虐な存在ではなくて、ただ人を奪って来るというのが一番悪かった。奪って来るのは米と麦と人間だけで、ほかの贅沢品は何もありません。人を奪って来る理由は、これは労働力なんです。つまり、山の上の段々畑みたいな所を開墾しなければやっていけないから、人間がどうしても足りない。