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ここで海賊と水軍の違いについて、ちょっと触れてみたいと思います。

『北条九代記』という、北条小田原氏の歴史を描いた有名な歴史書があります。その中に海賊問答という大変面白い問答があるんです。隅田川に浮かぶ船を見て、ある一人の侍が、「あの船は軍船と思うけれど、軍船に乗った侍は何と呼ぶんじゃろう」と聞くんです。そうしたら、一人は、「それは海賊に決まっとるじゃないか。海賊じゃろう」と、そうしたら、もう一人が、「あれは侍が乗るんだぞ。侍に対して、どうして山賊と同じようなことを言えるのか」、「そういうのは海賊とか盗賊のような呼び方をしちゃならん」と怒るんです。それで、その怒られたほうが、「では、聞くけど、何と呼んだらいいのか」、「兵船武者と言えばいいのか、それとも軍船侍と言えばいいのか」と聞くんです。そうすると、そんな言葉はないわけですから「そうだな」と考えたあげく、「それではやっぱり海賊衆にしようか」と言います。つまり、海賊衆という、衆という言葉には多少の敬意が入っていたんです。本当に何と呼んでいいか分からなかったのでしょう。山賊と違うということは、何となくみんな分かっています。必ずしもそうではないですけれど、山賊はただの追剥、強盗だと思っている人が多いのですが、海賊に関しては、どこでけじめをつけていいか分からないんです。要するに海賊は組織化されてちゃんとした姿になれば海賊衆に一段格が上がります。

 

 

 

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