そこで、神田にないんなら日本中にないと思っていいけれども、とにかく現地を全て歩いてみようと思いました。幸い、新聞連載の原稿料というのはかなり高額なものですから、全部使ってしまおうと思い、まず地図を見て検討しました。日本の海賊の中で、とにかく取り上げたいのは瀬戸内海の村上海賊衆と玄界灘の松浦党の二つでしたから、これで話を作ろうということで、それから連載開始までの二年間、ほとんどあらゆる所を渡り歩きました。特に、瀬戸内海というのは、ご覧になったら分かりますように三千幾つの島があります。どこに行っていいかも、最初は見当がつかなかったんです。それでも、私は長崎県の壱岐の出身ですから、松浦党のほうは土地勘があるんです。ですから松浦党のほうは後にして、瀬戸内海から歩き始めました。そういうことで、前置きはこのぐらいにしまして、瀬戸内海の村上海賊衆というのは一体どういう海賊であったか、また、マラッカ海賊とどこが似ていたか、いよいよ本題に入っていきたいと思います。
瀬戸内海というのは、地図でご覧になれば分かりますが、ちょうど小さな細長い袋のような形をしており、スマトラのマラッカ海峡とよく似ています。長さが東西四百四十キロあります。