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その時は多分だめだろうと思いながら、「ひとつ日本の海賊を書いてみたいと思うんだけど、どうだろう」と聞いてみたんです。「すぐ帰って相談します」ということで持ち帰った後に、「デスクも編集長も大賛成です」との返事でした。やっぱり時代が変わったんでしょう。それで、「それじゃ、やりましょう」と言われて、私は喜んだかというと全然そうじゃない。しまったと思いました。というのは、その二十年の間に、日本の海に関する資料がいかに少いかということが徐々に分かってきたんです。ただ、受けた以上は、やらざるを得ません。海賊の資料があるだろうかと心配しました。

新聞連載というのは、大体二年ぐらい前に決まります。二年間余裕がありましたので、すぐ友達からお金を借りて、何十万かを集めました。そして三日ばかり山の上ホテルに泊まり込みまして、毎日、海賊に関する本を神田の本屋で探し歩いたんです。そうしたら、呆れたことに、手に入ったのがたった二冊でした。一冊は『北欧バイキングの歴史』、もう一冊は『イギリス海賊法制史』という本です。現在はたくさん海の資料も出ておりますが、三十年前はそんな状態でした。既に持っておりましたが、一冊だけ『瀬戸内水軍史』という珍しい本がありましたので余分に買いました。三日泊まって持って帰ったのは、たった三冊です。その時に、連載は二年先と言うけれども書けないんじゃないかという怯えのようなものを感じまして、帰ってから真剣に考えました。

 

 

 

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