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私の場合、出身が壱岐でありましたから、ちょっと違いました。

壱岐は海に囲まれた小さな島です。ただ親父が生まれたというだけで、私がそこに育ったわけではありません。韓国の釜山で生まれました。韓国の釜山は『釜山港へ帰れ』という歌で有名な、韓国南方の一番大きな港です。そして終戦で佐世保という所に引き揚げました。これはもうご存じのとおり、軍港として非常に知れ渡っていた所です。その次に移ったのが、大学時代を除いて博多です。現在、私は博多港と湾内の魚市場から歩いて三分の所に住んでおりますので、生涯にわたって海を見ない暮らしをほとんど経験していないわけです。ですから、私の書くものには海が出てきて当然だと思っております。

思いもかけず小説家という職業につきましたが、これは志してなれる職業ではありませんし、努力したから報われるという職業でもありません。それだけに随分苦労もしました。新人の頃に、『海と虹の城』というタイトルの長編小説を書いて、ある大手出版社に持って行ったことがあります。その出版社の人から、「うーん、本にはします。しかし、このタイトルは困ります」と言われました。「どうしてですか」と尋ねたところ「海というタイトルは止めましょう」と言うんです。

 

 

 

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