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京から江戸に下ってくるものですから下りものです。それで下らんものという言葉があります。つまり、下らんものというのは、江戸から逆に下ってくるものはないという意味なんです。だから、あれは下らないやつだというのは、江戸からこっちに持ってくるようなやつで、どうしようもないものだという意味から出た言葉です。そういう意味で、江戸の人たちは、自分たちの消費しているものが、ほとんど北前船やその他の船でやってくるという認識が全くありませんでした。ちょっと考えれば分かるんです。馬一頭が運べるお米は米二俵と決まっています。千石船は千石の米が運べるわけですが、その船のおかげで自分たちが暮らしているんだという意識が、ほとんどの江戸の人にはなかったということです。

これは今の日本も変わらないと思います。例えば、我々が口にしているマグロにしろ、しょっちゅう使っている石油にしろ、あらゆる物を輸出入しています。日本は輸出入大国と言われていますが、その九九・八パーセントは船舶で輸出入されています。これを知っている人は、ほとんどいないんじゃないでしょうか。みんな何となく飛行機で運んでいるようなイメージがあるから、船というものを忘れています。そういう意識が、本当に長く日本人の習性のようにしみついてしまって、抜き難いのではないかと思うんです。私はその原因を、徳川三百年の鎖国制度が、日本人の海に対する関心をそぎ落としてしまったんではないかと考えています。

 

 

 

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