【質問】 ただ、こういう仕組みになっているということについての、関係者の共通の理解みたいなものは必要だと思うんですが?
【宇多】 確かにそう思います。しかしこの地域の人だけでやると、「大変だ、侵食対策やってくれ」となってしまいますから、やはり全体的な視野との関係で見ないといけないと思います。
【平本】 今日のような、こういう大きいスケールの話はわかったんですが、小さい入江のところでも、同じことが起こっているわけで、その背景にはそれほど必要ないと思われるような漁港がどんどん造られているわけですね。こうした場所でもやはり同じような手法が必要でしょうね。
【宇多】 もっと小さなポケットビーチでもこれと似たような、砂の供給バランスの不均衡が起こっているじゃないかという質問は、まさにそのとおりです。今日一日かけて走り回った九十九里という大きなスケールで起こっている現象のみが大事かというと、決してそうではなくて、例えば、1kmとか500mという長さのポケットビーチの片側で砂が溜まって、片側で侵食を起こしている例は、日本にはもう数え切れないぐらいあります。
ですから、こういう小さなスケールのものについても、きちんと話し合いをする必要があると思うのですが、なかなか難しい状況にあります。
【清野】 今日は、横浜国大の来生先生が来ておられますが、行政法のご専門家の立場から、今日一日見ていただいたご感想をお話しいただければと思いますが。
【来生】 突然のご指名で、何も考えてなかったんですが、今日は色々と、大変興味深いものを見せていただきました。私の商売は法律ですので、侵食の専門的なことは何とも申し上げられませんが、人間の要素も入れて考えるということで、砂の問題を広い範囲で色々合意をとるシステムが必要であるという視点は、大変よくわかります。しかし逆に、関係者が多くなればなるほど、それぞれの利害状況が違ってきますから、強制的に解決へと導く何らかのシステムがあれば良いんでしょうが、そのシステムがない限り、利害関係者の数が多くなり過ぎると、合意に到達するのが非常に難しくなるということが言えます。
確かに、自然の力に逆らって何かやるというのは、実に愚かしいことで、本来ならば自然の力を前提に、色々なシステムを考えるべきだと思います。しかし、今日一日見た中で感じた印象は、誰の利益をどういう形で評価をするのかという、非常に難しい問題が内在しているという点です。
【清野】 理想的には、皆で話し合って、自然現象も理解して、利害調整をしましょうというのは理想だと思います。しかし、実際には最終的に何かうやむやで、だれかが社会状況に応じて決めてしまう場合も多かったと思います。逆に、自然システムを考えた現実案が実現するとすれば、強権発動で保守・保全・保護・退去などを考えていくしかないのかなと思います。理想としては話し合いがいいと思うんですが、実際にはルールを作った上で「もう強権的にやらざるを得ないこともあるんだろうか」というようなことも考えることがあります。
【宇多】 利害関係が全然違う、それから、価値観が全然違うんですが、長期的には同じ、例えば「豊かな漁場を」というのと、「海岸がブロックだらけにしたくない」というのは、多分同じ方向を目指しているのかなと、僕自身は思っています。多くの場合、「合意はできないかも知れないけれども、まずは話し合ってみる」という基本的なことが無さ過ぎたというのがあると思います。特に行政は今まで、お上意識が非常に強過ぎて、「一般人はレベル低いんだから黙っていろ」、「このご紋が見えないのか」、そういうのが行政だと思っていた人がいたのは事実で、国民の付託をもらって、税金でやらせていただいているんだから、どっちが主人かというのを、あべこべに考えていたんだろうと思います。それが今、時代の過渡期にあって、時間がかかっても、色々な人の意見をきちんと聞くべきなのではないかという気がします。