【清野】 まず不幸だったのは、それぞれの利害関係者も、自分の一言がどういう結果をもたらすかとか、長期的に自分たちに返ってきてしまうということに、あまり気づかないまま色々な主張をして来て、かつ、その分野ごとにそれをサポートする制度が、かなりがっちりできていたということがあると思います。
九十九里浜のあるところでは、海水浴場の海の家をやっている人がいて、とにかく「削れる、削れる」と騒げば、お上が浜の前に離岸堤を造ってくれて、波が静かになって、いい海水浴場になるんだということで要望した、という話をご本人から聞きました。同じような話は徳島でも青森でも聞いて、要望というものを、皆が理解しないまま行ってきて、その公的整備も、それをそのまま流して来た世界というのもあると思うんですね。
こういった複雑な問題というのは、理科系の頭ですと、皆が自然の仕組みを理解すればいいんだと考えがちなのですが、これを文科系の先生に聞くと、法律とか制度とかの絡みがありますので、世の中そんなものじゃないです、と言われるわけです。そこで来生先生、もう一回、さっき海岸法とか、海の周りの物件とか、土地所有に関するところの問題点をお話いただきたいと思います。先ほど、歩きながら指摘されていたと思うんですが、じゃあ、どこまでも削れていいかというと、多分、土地所有者の問題と、はっきりいってバッティングしますよね。そのあたりはいかがでしょう。
【来生】 所有権の一般的な議論からいうと、自然海没で海の底に沈んでしまったりしたら、所有権が消滅してしまうというのが大原則です。そうすると、「今まで財産であった土地がなくなってしまうのは困る」というのは、住んでいる人の当然の反応ですよね。
海岸法とは、先ほどご説明もありましたが、改正によって国土保全だけではなくて、利用とか、環境とか、色々なことを総合的に考えるということになりました。しかし、基本的に海岸法というのは、国土保全の法律で、国土保全というのは何かというと、要するに皆の財産をどうやって守るか。それが出発点でずっと来ています。例えば、「現に住んでいる土地が無くなりそうだから何とかしてほしい」という要望が出て来たときに、「いや、全体の平和のためにというか、全体の福祉向上のために我慢しなさい」ということは、なかなか言いがたいというのが現実だろうと思うのです。
ですから、海岸保全事業というのは、基本的には、そういう形でずっと行われてきている、ということだろうと思います。法制度というのは、結局、人間の現に持っている利益を、いかに安定的にしてあげるかというのが基本の使命ですから、その前提は、これからもずっと多分生き続けるんだろうと思います。