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【宇多】 今日は2mぐらいの波ですが、凄いときは5〜6mの波が来るので、この消波堤を完全に越えます。その飛び越えた水が引くとき、必ずブロックの下を通過して沖に戻っていくので、同時に、削れた砂と泥が運ばれてしまいます。積み上げた消波ブロックの中の50%は空隙です。つまり、ほとんど空隙だらけでスカスカです。大きな波は、この空隙を通り抜ける際にエネルギーを失いますから、岸に寄せる波は穏やかです。ですが、波が引くときは消波堤の下を通過し、そのときに崩れた砂を持っていきますから、海食崖の侵食対策というのは、消波堤を設置したから完全とは言い切れず、未だに少しずつですが崖は失われつつあります。

遠方に消波堤が切れている場所がありますが、そこでは強い波が今も崖を削っています。つまり、この屏風ヶ浦の崖は削れども、削れども、侵食がとまるということはないのです。

もし、この崖が石灰岩などの硬い岩でできていれば、海食洞といって、先ほどお話した通連洞のような穴ぼこができるのですが、ここは柔らかい泥岩ですから、下の方がちょっと削れると、その上の土砂がドサッと落ちるということの繰り返しで、どんどん後退して行くのです。

 

消波堤のあの部分がなぜ切れているのかというのは、私も前から不思議です。崖上の土地利用の関係もあるのかもしれませんが、いずれにせよ、消波堤が切れている部分だけは相当なスピードで後退をしているのではないかと思います。

 

海食崖の侵食というのは波ばかりが原因とは限りません。今、我々がいる背後の崖には波が直接作用していませんが、ここには崩落した大きな岩が落ちています。これはどういうことかと言うと、崖面を良く見て下さい。地層面から地下水がしみ出ていますね。岩というのはこうした地下水や雨水で濡れたり、乾いたりを繰り返すと、乾湿風化といって非常に脆くなります。また、植物の根が崖に入り込んで行くと、くさび効果といって、くさびを打ち込むように崖の割れ目を広げてしまうことで、さらに脆い状態にしてしまうということもあります。雨の日の後などは特に危険ですから、巡検の際にはこうした崖にはあまり接近しない方がいいと思います。それから地震でも大きく崩落します。つまり波による侵食は無くなりましたが、今もって崖の崩落は続いているのです。

 

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屏風ヶ浦の上に広がる台地では崖面ギリギリまで土地利用がなされている。

 

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波の侵食は消波堤によって抑えられているとはいえ、崖の崩落は続いており、侵食が完全にとまったわけではない。

 

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屏風ヶ浦の地層を見ると、砂岩質の岩の上に関東ローム層の赤土が堆積しているのがよくわかる。

 

 

 

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