日本財団 図書館


【清野】 このように、海岸侵食というのは自然の営みの一部なのです。しかし人為的な作用によって、自然のスケールを上回るようなスピードで侵食が進んでいるというのが問題になっています。こういった場所は、研究している間にもどんどん侵食が進んでしまったというのが残念です。これから研究が進んで、同様に砂浜の重要性などが証明されたとしても、その前に砂浜が無くなってしまったのでは遅いのです。

 

【宇多】 以前筑波大学の先生で、現在は大阪大学教授の砂村先生が、日本の海食崖の問題は1970年(昭和45年)代で終わりを告げたと明言しています。つまり、その時点をもって、日本中の海食崖の至るところに消波ブロックを並べ尽くしたので、もはや本来の意味での自然な海食崖というのは無くなってしまったという認識なのです。今、海食崖のことを研究している人はあまりいません。海岸工学の研究者も海食崖などには関心がなくて、むしろ最近では、砂の動きのプロセスなどを研究しています。

 

海食崖の前面には、ダンプトラックが1台通れる広さのコンクリート消波堤が10kmほど続いています。なぜ、ダンプが通れるようになっているのかというと、海食崖前面の海域には、海食台と呼ばれる水深の浅い平らな海底面が広がっているため、消波堤工事を行う作業船が接近できないからです。こうした海食崖前面の消波堤設置工事の際には、まず消波ブロックを並べ、その上に岩を並べ、さらにその上に平らなコンクリートを敷くという手順で進みますから、重機で徐々に進みながら作業せざるを得なくなります。このために道路のようになっているわけです。しかし、波の力は物凄いですから相当傷んでいます。

 

052-1.jpg

海食崖に直接波が作用していた頃の屏風ヶ浦 1970年(昭和45年)頃

 

052-2.jpg

消波堤が設置された現在の屏風ヶ浦は、波の作用をほとんど受けなくなったため、前面には安定した砂浜が広がり植生も見られる。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION