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サーファーの視点で見た九十九里浜

一宮町でサーフショップchpを経営する中村一己さん

 

現在はサーフポイントとして有名な東浪見海岸も、私が今から25年程前にこの地に移り住んだ頃は誰も知らない秘密のポイントでした。その頃、海岸にはまだ広い砂浜が広がっていて、よく、浜で野球をしたことを覚えています。いまの東浪見海岸は侵食によって砂浜は消え、浜には波に削り取られた4〜5mの崖が続いていて、人が近寄るのはとても危険な状態です。こうした海岸の変化は、太東崎の護岸工事や太東漁港の拡張工事が大きく影響しているのは間違いないと思います。私はサーフショップ経営者という立場から、こうした海岸工事が、付近の海に与える影響には以前から関心がありました。ただ、あくまで侵食という視点からではなく、良い波のポイントに影響を与えるか否かという視点ではありましたが、いずれにせよ、以前から海岸工事には注意を払ってきたことは事実です。

 

今、東浪見から一宮にかけての海岸線では、砂を留めるための突堤(ヘッドランド)を何本も建設していますが、少なくともこの場所ではそれほど効果があるようには思えません。事実、東浪見の海岸で見られる浜崖を見る限り、侵食は止まるどころか、今も進行しているように思います。こうした海岸工事は多額の費用がかかっているわけですし、我々のように海で生計を立てている者は、こうした工事の影響を直接受けるわけですから、海岸行政にはもっと積極的に関わって行きたいと考えています。

 

そうした意味でも、行政の担当者には、護岸の設計の前にデスクワークから離れて、もう少し我々のような現地住民との対話を多く持って欲しいと思います。以前に町、設計者、土木事務所とミーティングを行ったこともありますが、計画が決まってから話し合いをするのではなく、設計段階から、住民が納得できるような合意形成の機会を設けて欲しいというのが我々住民の願いです。

 

今でこそ地元の行政にも色々と意見を言えるようになりましたが、地元の人達との信頼関係を築くまでには25年の歳月が必要でした。当時サーファーのイメージは決して良くはありませんでしたから、サーフショップとして地元にも認めてもらえるよう海岸の清掃活動などから始めましたが、こうした地道な活動や地域の人達との日々の交流を経て、ようやく地元の人とも意見を交わせる間柄ができたと思います。今まで培ってきた信頼関係を生かして、将来の九十九里浜のあるべき姿を考えていきたいと思っています。

 

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(左) 侵食が進む東浪見海岸の浜崖の上に立つ中村さん。

(右) 九十九里浜はサーフィンのメッカとして首都圏からサーファーが集まる。

 

 

 

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