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例えば1個10トンとすると、ここ一体では何万個という数が投入されているから、何億円というオーダーです。しかし、このブロックが無いと直立護岸が破壊されてしまいますから、やらざるを得ない。さらに厄介なのは、一回並べたからといって、もう安心というわけではなくて、砂の上に積まれていますから自重と波の作用でどんどん沈下してしまうので、護岸を守るのに必要な高さを確保するために、次から次へと積み増さないとなりません。ブロックの上段が比較的新しく見えるのは、こうした理由で、かさ上げ工事を行っているからです。

 

しかしこの消波ブロックは、砂浜が無くってしまった今、波のエネルギーを消す大きな役割を担っているのは事実です。でも一方で問題もあります。波のエネルギーというものは砂浜海岸では砕波帯で徐々に崩れながら消えるのですが、消波ブロックは波のエネルギーを僅か数m幅で一気に消しますから、砂浜の20倍くらい飛沫が出ます。その飛沫は大体1〜2kmは飛びますので、塩害という別の問題が生じてしまって、陸域への影響も甚大です。特に北陸などは、道路を海辺に造ったので、頭を痛めています。

 

【質問】 消波ブロックのデメリットの一つですね?

 

【宇多】 そうです。恐らくこの近辺の車の耐用年数は短いはずです。

このように、ここ野手海岸は、侵食の現場を見るには一番いい場所です。ここでは侵食のための色々な対策を打っているわけですが、こういう対策は全て公共事業としてやっています。費用的には1m当たり100万〜400万円とクオリティに応じて様々ですが、大体10mもやれば個人の家が一軒建つ金額になります。でも自分のお金ではないから、あまり気にされないまま工事がなされていくわけです。

 

【質問】 こういう海岸付近の場所は、背後に住んでいる人も少ないので人々の関心が少ないと思うんです。ここに来れば現状を目の当たりにできるので、人知れずこんなにも税金が使われている、という印象を持つ人が多いと思うんですが、議会などで土地利用の変更とか、そうした具体的な話が人々の場にさらされたことは今までありますか?

 

【宇多】 いや、ないです。だから、今日の海岸巡検のような場を踏んでから、そういうことをきちんと知った上で議論すべきなのですが、残念ながら、そのような過程を経て議論された試みはないはずです。しかし、こうした問題は広く多くの人に議論されないと無意味なわけで、少なくとも海岸工学の技術者に任せておいてはダメです。技術者は、侵食現場をどうやって守ろうかという技術論になってしまうから、今の話のような制度の問題までは踏み込みません。

 

【質問】 しかし現在のやり方では、ここを侵食から守ることは、皮肉にも隣接海岸の侵食を助長しかねない。そこの人にとって見れば、来るべき砂が流れて来ないから非常に困るわけですよね?

 

【宇多】 だから、ガバナンスという概念が必要なのです。つまり、ここの地点をどう守るかということが問題ではなくて、今朝立ち寄った本須賀海岸から、これから行く飯岡漁港まで、いやもっと広く屏風ヶ浦まで全体を見て、その中で程よいバランスというのはどういうものか、総合的な視野から考えることが求められています。海岸という地域では、全く異なる利用形態を持った多くの人々が生活しているのですから、それを考慮しつつ、どのように全体をバランスさせたらいいのか、そういう利害関係の調整という非常に難しい議論をしていかないとなりません。ある目的を達成するために他を抹殺するような考えでは、話は全然進まないのではないかと思います。

 

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九十九里浜の侵食機構の説明状況

 

 

 

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