【清野】 砂丘の窪地のところに白っぽい貝殻とかが落ちている砂礫の場所がありますが、こういう砂礫の色を保護色にして、コアジサシは3個くらいずつ卵を置きっ放しにします。今の時期、地表の温度は40度以上になりますから、夜も暖かいままで、砂がちょうど孵化器のような役割をしているのだろうと思います。砂丘の奥のほうでピーピーと鳴きながら親鳥が上空を旋回していますね。あの辺の下にヒナがいるのだろうと思います。
【清野】 こうした平坦で遠浅の海岸では、砂浜の浄化作用というものを見ることができます。ここに打ち寄せる波と一緒に泡が打ち上がって来ますが、この泡のところは、いわゆるおふろの湯あかみたいなもので、有機物が凝集しています。それで打ち寄せた波のうち、海水は砂に吸い込まれてしまって、泡だけが砂の表面に残るのです。そうすると、砂の中に住んでいる底生生物たちが食べたり、細菌類がそれを分解します。ですから、ここの砂浜の表面自体が物凄い大きな浄化装置になっているということになります。最近、干潟の浄化機能というのは有名になって来ましたが、残念ながら砂浜のこうした作用は、さほど認識されていないのが現状です。ですから、砂浜を失うということは干潟を失うのと同じで、海を浄化するような巨大な自然の装置を失ってしまうということになります。遠浅で勾配が緩いということは、それだけ浄化する面積が広いということです。遠浅の砂浜がなくなってしまうということは、砂浜は存在していても、海の浄化をしてくれるエリアが狭くなっているということになります。だから、日本では希少になってしまった遠浅の砂浜というのは、実は生き物のすみかというだけではなくて、海全体にとっても表面をきれいにしてくれるような効果を持っているのです。
満潮時の波打ち際のラインに沿って貝がたくさん落ちていますが、これは漁業種にはなっていませんが、ヒメバカガイという非常に殻が弱い砂の中に住んでいる貝です。波が荒いときに巻き上げられて汀線に打ち上がってしまうということがよくあります。こうした貝たちが生息できる遠浅の砂浜の環境は、今や貴重なものになっています。
今の時期、砂浜にはツメタガイの卵がたくさん落ちています。ツメタガイは、今がちょうど産卵期の終わりで、砂浜に行くと帯状のものが落ちていますが、これがツメタガイの卵です。砂茶碗とも呼ばれていますが、お茶碗みたいな形をしていまして、卵はこの砂の中にまざって入っています。この貝は、卵を産むときに周りの砂と自分の卵の粘液をまぜてこういう形に作ります。
色々な水産関係のニュースに注意していただくと、ツメタガイの駆除という話がよく出ています。この駆除は一種の福祉事業のようなもので、これがたくさんいると二枚貝の資源に影響を与えるので、これを手で拾って駆除するという作業に対してお金が出ます。大体日給が5,000〜7,000円ほどで正規の方を雇用する事業があります。このように水産関係にはちょっと変わった事業があります。
【質問】 この貝は有害なんですか?
【清野】 このツメタガイは、人間が食用にしている二枚貝を食べてしまうので、水産関係者からは嫌われています。今ここに落ちている二枚貝の蝶番のところに、まるでキリであけたような丸い人工的な穴が見えますが、これがツメタガイの食べた跡です。ツメタガイはカタツムリみたいな巻貝ですが、歯舌という、おろし金のようなヤスリ状の口を持っていて、このヤスリでガリガリと他の貝に張りついて貝殻を削ります。そうやって中身を吸い出すだとか、蝶番を破壊することで閉じた二枚貝を開けて食べてしまいます。