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実際の九十九里浜では波の入射方向は夏だとやや右(南)寄り、冬になるとやや左(北)寄りとなるので、循環流の形は若干変化しますが、概ね、お椀の縁から底へと向かう沿岸漂砂が卓越することになります。

 

九十九里浜では、このA点に相当する場所が片貝漁港よりやや南側の真亀川付近であり、今日巡検を行う片貝以北の九十九里浜では、北端の屏風ヶ浦の方から南下するように沿岸流が流れていることがわかります。

 

ここで砂の溜まり方をわかりやすく説明しましょう。味噌汁の入ったお椀を想像して見て下さい。お椀の味噌汁には重力が働いていますから、味噌汁はお椀の底を中心に溜まります。決して縁の部分に溜まることはありませんよね。

 

これを九十九里浜に置き換えると、打ち寄せる波の方向がここで言う重力に相当します。 つまり実際の九十九里浜の場合、お椀の底に相当する部分(A点)がやや右寄りとなりますが、おおむね、お椀の底に溜まった味噌汁の姿というのが、九十九里の砂の溜まり方になるわけです。ですから地形的な特質として、飯岡や一宮といったお椀の縁に位置する海岸は侵食を受けやすく、逆に片貝漁港付近のお椀の底の部分は砂が溜まりやすい場所であることが、おわかりいただけるかと思います。

 

各巡検場所ではさらに詳しい説明をしますが、こうした背景を頭に入れた上で巡検を行うと、単に砂浜を眺めるだけでも、ここは広いとか狭いという印象だけでなく、なぜそうなったのかという一歩進んだ見方ができます。それでは簡単な予備知識を得たところで巡検に出発します。

 

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崩れ落ちる海食崖

海食崖が消波堤によって取り囲まれるようになった現在は、侵食による後退速度は大幅に低減したものの、風化や地震などによる崩落は今も進んでいる。

 

海食崖(かいしょくがい)

波の荒い外洋に面した海岸線に多く見られる地形で、山や台地が波浪によって侵食され、海面から直接切り立った崖となった海岸地形のこと。

 

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器の中の水は重力によって底に溜まる。波と砂もこれと同じ関係で、波の入射する方向によって砂の溜まる場所は自ずと決まる。図中央の右に傾いた容器の底が左側のように図を左に回転させると、左から波が入射する海岸の砂の溜まり具合を模式的に表すことになる。

 

 

 

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