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「タッタッ、タケジロ、おまえこれ?」

にいちゃんがどもった。

「ひとりでとったんや」

「うそつけ!」

ぼくは、さっきぼくの目の前に飛びあがってきた魚のようすを話した。

「そのときな、葦の根もとへ一直線に飛んできたんがこれや」

ぼくはバケツのなかをのぞいていった。

「ええ、ほんまかあ」

にいちゃんは、ぼくの顔を、じいっとみつめてから、バケツの中に手をつっこんで魚をすくいあげた。

「これ、サバかなにか、でっけぇ魚におっかけられて、命がけでにげてきたイワシや」

「ほんでも金太郎やで!」

にいちゃんはもう一度、魚をすくった。

「ほんま、金太郎やな、この青色や」

ぼくはうれしかった。

「この海、ええ海やなあ」

ぼくはいった。

にいちゃんも笑ってうなずきながら、じぶんの貝のふくろとぼくのイワシのバケツを、潮だまりへならべておいた。

 

ぼくとにいちゃんは、砂浜にならんで沖をみた。遠くにうかんだ漁船は、動いていないみたいだ。カモメはつぎつぎ餌をとっている。

「そうや、あの船のおっちゃんに、金太郎のことおしえたらな」

ぼくはあせっていった。

「おーい、おっちゃーん」

にいちゃんがいきなりさけんだ。でも船は遠くて声がとどくはずもない。それでも黙ってはいられない。

「おーい、おっちゃーん」

 

 

 

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