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ぼくは、バケツを水ぎわにはこんで、両手で水をすくい入れた。魚はみんな泳ぎはじめた。

ぼくはうれしくて、じっとしてはいられない気持ち。早くにいちゃんに知らせたくて、海のほうをみると、にいちゃんはさっきのまんま、沖のほうをむいて貝をさぐっていた。

 

そのとき、沖で飛びかっていたカモメが一羽、海面すれすれに飛んで餌をひろった。

(あれ、あれ)

よくみると、ないだ海に、ひとかたまりのさざ波があった。水の色もちがう、魚の群れにちがいない。

「おーい、にいちゃん、魚の群れや」

ぼくは、大声で呼んだ。

「えっ、どこや」

にいちゃんは、貝の入ったあみぶくろと、竹ざおをかかえて砂浜へあがってきた。

「さんばしからずっと沖のほうや。ほら、ほらあっこ、カモメが飛んどるとこや」

ぼくは沖のほうをゆびさした。そのとき、また一羽のカモメが餌をひろった。

「おっ、ほんまや、魚の群れやな」

にいちゃんがしっかりうなずいた。

「あれ、金太郎やろ?」

ぼくはいった。

この内海では、九月になって柿に色がつきはじめるころから、背中の青色がさえて、まるまる太った金太郎イワシがとれはじめる。ぼくらの海の名物なんだ。

にいちゃんは、かかえていた貝のふくろを磯の潮だまりへおろした。

ぼくは、魚の入ったバケツを、にいちゃんのまえへつきだした。

「にいちゃん、これも金太郎やろ!」

ぼくは胸をはった。

 

 

 

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