「おーい、タケ」
ほうら、にいちゃんが学校からもどってきた。
「海がよんどるぞー」
「ほんまにや」
にいちゃんは、カバンをえんがわになげだした。
「いまからすぐいくん?」
ぼくのあたまのなかに、大きなクロクチ貝がうかんだ。にいちゃんが海へ入るといつも、うまいクロクチ貝をとってきてくれるからだ。
「おい、タケ、おれの竹ざおもってこい」
「ほいきた」
たいくつしかけていたぼくに元気がでた。
ものほしざおに、赤いひもや、網のふくろをしばりつけてあるのがにいちゃんのさお。ほそくてみじかいのがぼくのさおだ。
網とバケツももってもどってくると、にいちゃんはもう、水泳パンツのひもをむすんでいた。
「にいちゃん、きょうも、虹がでとったで」
「おう、しっとる。にわか雨やろ。だからこのあたりじゃ、弁当をわすれても、傘わすれるなっちゅうのんや」
「ぼくは、やっぱし傘より弁当もっていくで」
にいちゃんは笑って、わらぞうりを足さきにひっかけると、さおをつかんで走りだした。
「にいちゃん、だあれもさそわんのか?」
「おう」
「まってえや、ぼくもいくのに」
「あとからこーい」
にいちゃんは、磯の石垣の上をひょい、ひょいっと走っていってしもた。
ぼくは、網とバケツをもって、にいちゃんのあとをあるいた。
ぼくが砂浜へいったときには、にいちゃんはもう胸まで水につかって、竹ざおをつえにして足の爪先で貝をさぐっていた。