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きゅうにふりだした雨があがって、雲のあいだからまぶしくひがさしてきた。

ぼくは、外にとびだした。

さっき遊んだかんけりの、つぶれたかんに水がたまっている。ぼくはそのかんを、おもいっきりけとばした。

「あっ、虹がでとる」

対岸の松林から、海をまたぐように虹がかかっていた。

ぼくは二階の窓にむかってさけんだ。

「おーい、にいちゃん、虹がでた」

へんじがない。

まだ学校からもどっていなかったんだ。

そのまにちょっと、じこしょうかい。

ぼくの名前は山下タケジロウ、二年生。にいちゃんはユタカ、五年生。母ちゃんは、町の水産加工所の手伝い。父ちゃんは、定期船の船長。漁師だったじいちゃんは、去年死んでしもた。家は、町から少しはなれたところのたった八軒の漁師町にある。

うしろは、ぐるうと大きく山にかこまれていて、ふもとにはバス道がとおっている。

海にむかって、左のほうに町があって学校もある。右のほうは松原や砂浜で、葦の群生している海岸が遠くまでつながっている。

山の上のお寺からみると、きれいだよ。

一文字にのびた長い松林が、海をちぎったように分けている。松林のむこうがわは外海で青くて大きい、水平線がみえるし、大きな船もみえるし、波は大きくうねっている。

ぼくは、大きくなったら水平線のむこう、遠い海までクジラをとりにいこう、とじいちゃんと約束していたんだ。

松林のこちらがわは内海で、ぼくらの海だ。

青色がうすくて小さくて、はしからはしまでみえる。波はしずかで、空の色がかわると、海の色がかわってみえる。一日に七回も色がかわってみえるときだってあるんだ。

 

 

 

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