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太一がオジンに聞いた。

「そうね。でも、なに?きみ、なにかふしあわせなことあるの?」

「べつに……」

太一が口ごもった。

「あるある。オジン、太一な、桃子のことが好きなんじゃ。けど桃子はえろう近くまで言ってしゃべってやらんと、よう聞こえんのじゃ。そいじゃけん、桃子はいっつも一番前の席じゃ。太一はでかいんで一番後ろじゃ。ふしあわせじゃろうが」

正すけは、おれだけが知っているというふうに、太一のかわりに説明した。

太一は耳も首もまっ赤になって、正すけをにらんだ。正すけはそれにもめげずにオジンに、ふしあわせの送り届け方をまだ熱心に聞いていた。

「その国は東の海の水平線のずうっとむこうにあるってことだから、たぶん東の海にむかって一生懸命に願えばいいと思う。でも、きみたちがそうしなくっても、ほとんどあちらが気がついてくれていて、しあわせに変えてくれるんだと思う」

オジンは変にもじもじとした言い方をした。

「ようわからんなあ。太一、わかった?」

太一も首をかしげた。オジンは、

「あのね、海のむこうの国からは、ときどきこっそりきみたちにまぎれて、神様が様子を見にきているんだ。すぐに神様だなんては、ばれないようにして、きているんだよ。だから、きみたちのしあわせも、ふしあわせもちゃんと知っていてくれるよ」

「……オジン。オジン、もしかして坊さん?」

「ちがう、ちがうよ」

「じゃあなに?学校の先生?」

「それもちがう」

「浦島太郎……じゃ、ないよ、ね」

「……うん。太郎じゃ、ないよ」

 

 

 

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