(おれはもっと男らしいことを言うっ)
ところがオジンと目が合ったとたんに口から出たのは、
「かあちゃんととうちゃんにする、肩叩き」
それはたしかに太一の出した声だった。
オジンはやっぱ人間じゃないのかも知れない。太一と正すけは、砂をにらみつけながらそう思った。オジンはにこりともせずに、また聞いた。
「いつかなりたいものはなに?」
こんどは正すけは素早くオジンから目をそらしたので、太一の目がオジンの目につかまった。まただ。言うつもりなんかぜんぜんなかったのに、太一はかあちゃんにも言ったことのない心の決心をしゃべっていた。
「おれ、星と風と雲とな、そういうのを読める男になりたいんじゃ」
「なんじゃい、それ」
正すけがびっくりして顔を上げた。オジンはじっと太一を見ていた。
「ああんと……よくわからんのじゃけんど、田原屋の辰美ニイや岬の勝ニイの船が帰ってこんかったじゃろが。あんとき青葉屋のジイが(あいつらに星が読めるように、雲としゃべくれるようにしとってやりたかった)いうてたの聞いたで。ニイたちは、古くせえって聞かんかったのじゃと。おれは、ニイたちに帰ってきて欲しい。そんじゃから、おれはジイよりもっと星や風や雲と話せるようになっちゃるんじゃ。ニイたちを取り返しちゃる」
「太一がいまからそうなれたとしても、もう辰美ニイや勝ニイは帰ってこんじゃろうが」
正すけがしょぼんと言った。
オジンは正すけを見た。正すけはびくんとなった。
「おれは、島一番の……。世界一の料理人になるんじゃ。それも魚をうんとうまく食わせる料理人じゃ。えーと、でもその前に、絵描きにもならんといかんのじゃ。それで、おれは世界一のおれの絵のついた皿で、世界一のおれの料理を世界中の人に食わせてやるんだ。そんでそんで、祭りには辰美ニイたちの墓にも届けるんだ。そうすりゃ辰美ニイたちの心が、うまそうな匂いをたどって帰ってくるんじゃ」