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「修行?そうね、いままでにぼくがした修行といえば、いくつかの国の言葉を覚えるためのと、いくつもの国の楽器を弾けるためのと、あとなにかな……しあわせを感じる心を育てること……もかなぁ。まあ、そんなところ。魚の居場所や、その、なに、宅急便がどうとかっていうのは、よくわからないな」

太一と正すけは、ウラタのオジンをどう信じていいのかがわからなかった。

「浦島太郎って知っている?」

正すけだ。

「ああ知っているよ」

「……オジンは……、浦島太郎か?」

「え? 浦島太郎。ああ。え? ぼくが?」

「そうなんじゃろうが!」

きびしい声で太一がせまった。

「え? え? ええ?」

ウラタのオジンは、ゆれる炎でゆらゆら見える。正体がばれたっなんて叫んで飛びかかってきたら……!どうしよう。聞いたあとで太一たちはしまったと思った。おそかった。

ぐわっはっはっは ぐがっはっはっは

浜がゆさぶられるような大きな笑い声が、オジンの口からばくはつして飛び出た。

「浦島太郎ねえ。のぞむところだ」

オジンはまだ笑い続けた。そしてまるで三っつめの顔があらわれたように、急に真剣な顔つきになった。

「きみたち、いま一番好きなことはなに?」

じっとみつめられて聞かれると魔法にかかったみたいになった。正すけは、

「料理」

と言った。初めて聞いた。信じられなかった。魔法にかかったんだ……。太一はこんどはオジンがじっと自分の方を見ているのを感じた。

 

 

 

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