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日本語だ。人間だ。いや、ちがう。

オジンはゆっくりと顔をはいだ。

正すけはついにどすんと後ろにしりもちをついた。太一はそのはずみで前へ一歩突き出された。

オジンのはぎとった顔の下の、二つめの顔。それが、太一の目の前にうばっとあらわれた。片目が青で片目が緑っぽいふしぎな色の目だった。

「やあ」

鼻もちゃんとあった。口も歯もふつうだった。まゆ毛もある。

「ああこれか。おどろかせちゃった?これ、おれの親友が作った仮面。これしていると、そいつの声が聞こえる。……気がする」

顔も言葉も、大丈夫。ぜんぜんふつうだ。

「きみたち、なにしてるの。こんな夜中に」

太一はオジンから目をそらさずに、じりじりと数歩ずりさがって正すけのわきにぴたっと座った。

炎ごしにオジンが見える。

「……さっきの言葉は、なんの呪文じゃ!」

太一はにらむようにして聞いた。

「さっきの?ああ、あれね。あれは、この仮面を作ってくれた親友の、国の言葉。遠い国の言葉さ。呪文みたいだった?」

「みたいでない。呪文じゃったろうが!」

「そうか。ふーん、そういうふうにも聞こえるのか。おもしろいな」

「なにがおもしろいんじゃいっ。オジンはなにしにこの島へきた」

「うーん、そうねぇ。眠りに……かな」

「眠るなんちゃ、自分ちですることじゃ。それに、なんで眠りにきた人が月夜の夜に、浜にあらわれるんじゃ。人間は夜に眠るもんぞ」

「ああそうか。そう言われればそうだね」

正すけもやっと質問を開始した。

「オジン、なんで魚がおるとこがわかるん?遠くから宅急便をどうやって送らせるん?どこでそういう修行してきたんじゃ」

 

 

 

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