「これからどうするんさ」
「決まっとる。行くんじゃ」
「行くって?」
「ああ、ま正面から顔も見る。どっからきたのかも聞く。なにしているのかも聞く。こい」
太一は深呼吸をするとずんずんと砂の浜へ下り出した。
「待ちや。おい太一……」
正すけがかけた声が太一に聞こえたのか聞こえなかったのか、太一はかまわずにずぶずぶと進んで行く。正すけも後を追った。
小さな浜はすぐに平らになった。炎は太一と正すけの顔を下から照らし上げた。オジンはぴくりともせずに前の海を見たままの姿勢であぐらをかいている。
太一と正すけは、炎とオジンとを見下ろしながら次になにをするべきか考えた。と、そのとき、はりつめた静かさの中に正すけの間の抜けた声がぽわりんと落とされた。
「きれかですね、月」
太一はぽかんとなって、声の主の正すけを見た。正すけは大まじめな顔でかちこちになっていた。オジンがスローモーションのように顔を向けた。
うぐっ ぎょっぇ
二人はあとずさろうと思うのに体が動かない。しがみつき合うのが精一杯だった。
赤根屋のマチ子が言った通りだった。
まゆ毛がない。鼻の穴だけの鼻。すべっとしたほっぺた。すぼまったまっ赤の口。まっ白の長すぎる髪の毛。
「QIXД◎Ё жИ ΔθZГ ?!∞∫√」
(な、なんじゃい!)(なんだってんだよぅ!)
生まれてはじめて聞く変てこな言葉だった。太一と正すけは声にならない声を吐きながら、ほとんど気を失いそうな気分だった。
「こんばんは。こんなに遅く外に出てていいの」