太一は、大人たちの話しだけでは物足りなかった。
自分でたしかめたかった。
かならず浜にいるのは、満月の夜だという。いよいよその満月の晩がきたのだった。
(顔も前からちゃんと見ちゃる)と太一は、決心していた。
けれど、いざとなると一人はやっぱり心細かった。なんとか正すけを引き込みたかった。正すけのおくびょうなのはよく知っていた。太一は作戦をねったのだ。正すけはおくびょうだったけれど、弱虫ではない。負けずぎらいでもあった。
太一の作戦は成功した。正すけはきっとくる。
浜は堤防のある港から少しはなれた西よりにある。港から道の細くなった方へ下ると、小さな浜があり、その向こうには大岩と言ってもいいくらいの小さな島が少しばかりの松などを乗せて浮いていた。月はその小島のななめ頭上に光っていた。
浜に人かげがあった。浜につっぷすように前かがみになって、黒く動いていた。
ぶぼおっんっ
とつぜん高い炎が上がり、浜が朱色に染まった。月は少しもおどろかず、茄子紺色の夜空の同じ場所でしーんと白く丸い光をたたえていた。
太一はぞくっと体をふるわせた。
(こわかねえぞ。こえぇもんか)
「太一……」
後ろでささやくような小声がした。太一はぴぃこんっとあわてて態勢を立て直した。
「あほっ正すけ。びくついた声出しよんなっ」
太一の声は、いせいはよかったけどなんだか少しふるえて聞こえた。
太一の背中には、ひたりと正すけが立っていた。二人は自転車のスタンドをそこに立てた。
「いたな」
「うん。言ったろうが。満月なんじゃから」