ぼくは血なまぐさいサメの頭が目のまえにあるので、なかなか眠れそうになかったが、ひどくつかれていたのだろう。単調(たんちょう)なエンジン音を聞いているうち、いつのまにか寝てしまっていた。
ところが、二、三時間ほどたって、エンジン音がぱたりととまった。もう港についたのかと思いおきあがってみたが、船はまだひろい大海原のなかだ。水辺線の向こうに黒い島かげがかすかにみえていた。
「こまったことになったな。燃料(ねんりょう)ぎれだ。こいつにひっぱられて、かなり遠くまでながされたんだな」
父さんははきすてるようにいい、サメの頭をけとばした。燃料がないと船は波まかせ潮まかせになってしまう。父さんはためいきをつくばかりだった。
このときぼくに、アイディアがひらめいた。
「父ちゃん、ぼくにいい考えがあるけど、ちょっとためしてみてもいいか」
港をでるときもってきたセールバッグのなかに、ヨットの帆(セール)が入っているのを思いだしたのだ。それをとりだし、長いもりをマストがわりに立て、竹竿(たけざお)を利用して、いつか神谷(かみや)さんから聞いた、ずーっとむかしにアラビア海ではしっていたダウ船のような三角の帆を作った。