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やがてあけがたになり、すっかり力をなくしたサメは、腹を上に下にしながら波にゆられてういてきた。

「イサム、やったぞ」

父さんはしずかにいった。

「やった、やった、やっつけたぞ!」

ぼくも船のなかで小(こ)おどりしてさけんだ。

ところが、このホオジロザメはあまりにも大きすぎて、船にあげることができなかった。ひっぱっていくこともできない。そこで、父さんはつかれきった右手でもういちどなたをふりおろし、頭とひれだけをきりとって船にあげることにした。あとはすべて海にすてた。

「さあ、帰ろう」

父さんは血だらけの右手でエンジンのひもをひいた。しずかな海にふたたび排気音がひびく。

「かなり遠くへながされてしまったようだ。島へつくまで時間がかかるからな、おまえはもう寝てていいぞ」

 

 

 

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