マサー兄(ニー)が、そっとぼくにおしえてくれた。
「父ちゃんのともだちが三人、サメにやられて死んだ。二人は海のなかで腹をかまれて死んだ。ひとりは足をくわれ、病院に運ばれたが出血多量でたすからなかった。三人とも父ちゃんとはむかしからの親友だった。おまえも男だ。親父の気持ち、わかってやれよ」
その夜は、ぼくもおそくまで眠れなかった。あけがた、小便がしたくなっておきた。納屋(なや)でゴゾゴソともの音がしていた。どろぼうかと思い、トイレの窓からそっとのぞいてみると、父さんが麻ぶくろを背(せ)おい、手にもりをもってでていくのがみえた。ぼくもいそいで服を着がえ、ヨットのセールバッグをかついであとを追いかけた。そとはまだまっ暗だった。
父さんは港においてあったサバニを海におろそうとしていた。
「父ちゃん!」
ぼくが声をかけると、父さんはビクッと肩をこわばらせ、ふりむいた。
「なんだおまえ、どうしたんだ?」
「父ちゃんこそ、どこにいくんだ」
「ひさしぶりにちょっと釣りにいってくる。お昼には帰るから、おまえはうちに帰って寝てなさい」