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夏休みのあいだじゅう、ぼくは毎日のようにヨットに乗っていた。神谷(かみや)さんから操縦方法(そうじゅうほうほう)をならい、風がそれほど強くない日ならひとりでも乗れるようになっていた。

「イサム、このヨットはおまえにあげるよ」

夏休みがおわり、神谷さんと屋嘉部さんは本土(本州)の大学へもどるまえに、ぼくにそういってくれた。すごくうれしかった。二学期がはじまってからも、ぼくはときどきひとりで乗っていた。

そんなある日、学校から帰ってマサー兄(ニー)のうちへ向うとちゅう、港におおぜいの人があつまっているのがみえた。救急車がサイレンを鳴らしながら走りぬけた。急いで港へいってみると、血だらけの人が救急車へかつぎこまれていくのがみえた。また漁師がサメにやられたのだ。まわりにあつまっていたおばさんたちがおそろしそうに小声で話していた。

その夜、マサー兄(ニー)とヒロー兄(ニー)がうちへきた。父さんと酒を飲んで、なにか話をしていた。

ぼくがそばへいくと、

「おまえはあっちいってろ!」

と父さんはおこった。その眼になみだが光っているのをみて、ぼくはハッとした。生まれてはじめてみる父さんのなみだだった。

 

 

 

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