「それゃあまたすごいねえ。だけど、ヨットつくるって、そうとう金がかかるんだろう。おまえら、そんな金あるのか?」
「いや、そんな大きいヨットじゃなくて、せいぜい二人乗りの小さいやつだよ」
「だからさ、ヒロシーの顔でよう、造船所の材木のきれっぱしとか大工道具(だいくどうぐ)とかを、使わせてもらえないかなあと思ってさ。それと、だれかいっしょに手つだってくれなんかなあ?」
神谷さんと屋嘉部さんが、そんなことをいっていた。
「ああ、そういうことなら、おれが社長に話してみてもいいぜ。でも、おれはしごとがあるから手つだえないけど……。そうだ、イサム、おまえ、手つだってくれんか?」
ということで話はきまった。さっそく、あくる日からヨットをつくることになった。ぼくも夏休みに入っていたからつごうがよかった。兄さんたちのしごとを手つだいながらヨットができてくるのをみているのはとてもたのしく、わくわくした。
スギ板(いた)でつくったヨットは二週間ほどで完成した。みんなでかついで造船所のまえの海におろした。神谷(かみや)さんがさきに乗りこみ、つぎにぼくを乗せてくれた。
スルスルと帆(ほ)をあげると、白帆(しらほ)は風をうけて、まるで大きな白い花のようにパッとひらいた。ヨットはしずかに波をきり、少しかたむきながら走りだした。みんな手をたたいてよろこんだ。ぼくはなんだか、むねがフワーッとふくらむのを感じた。