造船所(ぞうせんじょ)のとなりにあるマサー兄(ニー)の家にはいつも、兄(アニー)の中学校の同窓生(どうそうせい)や、後輩(こうはい)の中学生たちがあそびにきていた。また、兄(アニー)の同窓生でとなりの造船所で働いているヒロー兄(ニー)も、いつもいっしょだった。庭でバーベルあげをしたり、空手(からて)の練習をしたり、すもうをとったりしていた。夜は兄さんたちが島酒のあわもりをのみ、三味線をひいて民謡の練習をしていた。それを聞いているのがとてもたのしかった。
そんなある日、しけで海にでられないので昼間から酒をのんでいた兄(アニー)たちはサメ漁(りょう)の話をはじめた。ぼくが算数の宿題をしながら聞くともなく聞いていると、
「イサム、ちょっと見てみい」
マサー兄(ニー)は魚の図鑑をひらいて、サメの写真をみせ、こう説明した。
「サメには、アイザメとかネムリザメとかいうおとなしいものもいるけど、このトラザメとかシュモクザメとかいうのはどう猛で、とくにこのホオジロザメは『人くいザメ』ともいわれている」
兄(アニー)はぐいと酒をのみ、口をぬぐって話をつづけた。
「おまえの父ちゃんのうでをくいちぎったのも、このホオジロザメだ。白っぽい色をして、長さは七メーターちかくあった。なにしろサバニより長かったんだからなあ、おれもおそろしくて、手も足もだせんかった……」