このときともだちのひとりが、
「あのオッサン、左うでがない」
と、大声でいったので、ぼくはカッと耳が熱(あつ)くなり、頭のなかがぐるぐる回った。
みんなのかばんをほうり投げたぼくは、走ってうちへ帰った。納屋(なや)へかけこみ思いきりかばんを壁(かべ)にたたきつけた。納屋には、船のエンジンや部品や、工具類や、網やもりやなたなどがおいてある。
ぼくはそのなかでうずくまって泣いていた。
*
そんなことがあってから、ぼくはもうかばんもちゲームをしなくなった。ともだちもぼくをさそってくれなくなったし、ぼくもさそってもらおうとしなかった。少年野球チームからもぬけ、かんけりも「悪漢探偵(あっかんたんてい)ゲーム」もしなくなった。つまり、ぼくはじぶんからなかまはずれになったのだ。
けれど、それでひとりぼっちになったというわけではない。そんなふうになかまはずれになる子はたいていいじめにあったものだが、ぼくの場合はちょっとちがっていた。なぜなら、ぼくはおとなのなかま入りをしていたからだ。
学校から帰ると、ぼくはまっすぐマサー兄(ニー)のうちへいくようになった。マサー兄(ニー)は水産高校をでて、島で漁師(りょうし)をしていた。以前は父さんといっしょに漁をしていたこともある。ぼくの父さんがサメに片うでをくわれたときも同じ船に乗っていたのだ。