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ある日、学校からの帰り道、ぼくはともだちとかばんもちゲームをしていた。犬や猫や牛や馬などの動物を早く見つけたものが勝ちで、一ばんおそかったものにみんなのかばんをもたせるというゲームだ。動物のほかには、自動車もふくめていいルールだった。なにしろ当時、島には自動車がまだなん台も走っていなかった。

「馬車(ばしゃ)だ、一台みつけたぞ」

「ちがう、馬車じゃない、人がひいてるから荷車(にぐるま)じゃないか。わあい、おれの勝ちだ」

「なんでぇ、馬車とおなじだろ」

坂道の交差点のあたりでともだちがそんなことをいいあっていた。ぼくはみんなのかばんをもたされて後ろのほうを歩いていたので、その車をみていなかった。だが、よくみると、父さんがひく荷車だった。父さんはクバ笠(がさ)(クバの葉であまれた笠)をかぶり、うつむきかげんでけんめいに車をひいていた。それでぼくは気がつかなかったのだ。

 

 

 

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