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「まわりに船は一隻もおらんし、初めはそれが何だかよう分からんかった。ところがみるみると鳥の数が増えて、しまいには黒い塊みたいになって海面近くを旋回するんや。もう、心臓がドキドキするほど、びっくりした。アレが鳥山かっと。それはそれは壮観な光景やったから、ヨッシャ、この下にぎょうさんおるぞ、と一人で舞い上がってしもうた」

鳥山の主役は、オオミズナギドリたちだ。その仲間はふだん、海洋の離島に穴を掘って棲息している。羽根をホバーリング状態のようにしながら、海面すれすれに旋回する彼らの眼下には、必ずカツオとイワシの群れが寄り付いている。腕利きのベテラン漁師なら、たった数羽のそんな仕草から、カツオの群れをたやすく見つけだす。ペリカン属のカツオドリも同じく鳥山をなす、と紹介した本が巷には多いが、実際に船上でそれを目撃した話はまず聞かない。カツオに群がるこのオオミズナギドリを、一部の漁船員がその語感からカツオドリと誤解してしまうのではないかと思う。いずれにせよ、一本釣り漁船がカツオを追う時間帯は、あくまで海鳥の目が利く明るい間に限られるワケである。昼夜の別なく釣果を求める鮪漁船とはそこが違う。

瀬戸内海の斎島(いつき島)周辺では、これとよく似た発想のもとに、タイやスズキを一本釣りしていた時代があった。冬に北極海から飛来する、渡り鳥アビの習性を利用したアビ漁(別名イカリ漁)がそれである。イカナゴの若魚・コウナゴは佃煮の材料として関西で人気が高い。同時にこの小魚は、長距離を飛ぶアビには、貴重なスタミナ源でもある。

 

 

 

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