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新六の提示する最大の契約成立の条件は、新六自身が現在企図している南鳥島開発の資金を前借させてくれるか、どうかの問題だった。

新六の作戦は当った。提示した充分の額ではなかったが、交渉相手の両者から相当の資金の前借に成功した。

そのことを後で知った金十社の重役連中はおのれの不明はさておき、飼い犬に手を咬まれたような錯覚を抱いた。

新六にすれば、グラムパス島という宝の島を探索しながら、偶然、南鳥島という大海に漂う粟粒ほどの無人島を発見したのである。

しかし、現在その島に日の丸の旗を掲げ、八名のいのちが在る限り、あくまで本命はグラムパスだとしても軽々に対処すべき事ではなかった。

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新六もその存在を信じていればこそ、グラムパスに日の丸の旗を掲げるという壮大な夢が、限りなく海の開拓者の情熱の炎をかきたててくるのだった。

ところで、明治二十年(一八八七年)代から三十年にかけて盛んに喧伝されたグラムパス群島は、そもそもどのような宝の島だったのだろうか。

それを語る前に、グラムパス島発見に生涯をかけて大海原を疾駆し、そしていつの間にか忽然と南海の果てに消息を絶ってしまった水谷新六なる人物の生いたちに筆者はふれておかねばなるまい。

 

 

 

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