この事件における乗客の犠牲者の数は、タイタニック号の時と同様に等級によって差が生じていた。
最終的な集計によると、犠牲率は、一等船客五九パーセント、二等船客八二パーセント、三等船客八一パーセントであった。二、三等船客の犠牲率が圧倒的に高かった原因は、夫々の船室の船内での位置にあった。
一等船室が上甲板以上の、比較的脱出しやすい位置にあったのに対して、二、三等船室は、船体後半部の第二甲板以下の閉塞された位置にあったために、これらの場所への浸水が極めて短時間のうちに始まり、しかも船体が急速に傾斜して行ったために、乗客たちの脱出路がわずか六〜七分の間に断たれてしまったためでもあった。悲惨である。
犠牲を多くした今一つの原因に視界の利かない濃い霧があった。
ファザーポイントの船舶運行監視所の無線室は、突然の救難信号を至近距離から受けた。発信している船はつい先刻パイロットを下ろしたアイルランド号である。
全く信じられない事であるが、事態は急を要している。
監視所からは直ちに二隻の作業船を発進させたが、視界が霧に閉ざされ全く利かず、やっと遭難現場に到着した時には、総てが終っていたのであった。
ストールスタッド号から降ろされた二隻の救命艇を含めて、十一隻の救命艇に救助された総ての遭難者はとりあえずストールスタッド号に乗り移った。その数は四百六十五名。
千十二名が命を失ったのであった。内訳は、乗客八百四十名、乗組員百七十二名である。
乗客の犠牲者はタイタニック号の犠牲者八百十二名を上廻り、航洋客船史上世界最悪の事故となってしまった。