全長千百九十キロメートルを流れ、ケベック州のガスペ半島の北端でセントローレンス湾に注がれる。
セントローレンス湾を更に五百キロメートルほど南下すると、そこで初めて大西洋に至るのである。
セントローレンス川の河幅は、ケベック付近から急に広がり、そこでは幅十キロメートルにも達し、さらに河口付近では百六十キロメートルにもなり、既に川というよりも大きな海峡の姿に変化している。
この川のもう一つの大きな特徴はその深さにあった。
中流のケベック付近でも水深は既に十メートルを超え、河口付近では四十メートルにも達し、これは世界の大河の水深に比べて格段に深いのである。
河幅の広さと水深の深さは、セントローレンス川に外洋航路の大型船の航行を可能にさせたのであった。
しかし、セントローレンス航路の最大の難点は、冬の十二月から翌年の四月までの間、セントローレンス湾が氷結する事で、当時はこの期間は、砕氷船以外にはセントローレンス湾を通りぬけ、セントローレンス川を航行することは不可能であった。
従って、冬の間は、イギリスからカナダヘ向う船の発着は、内陸へ向う交通の不便さが多少あっても、氷結の心配の少ない大西洋沿岸のハリファックスに移されていた。
春も深まる五月になると、セントローレンス川にもやっと大型客船が姿を見せるのであるが、川の水の温度は、雪解け水のために氷の様に冷たいものであった。
この冷たい川の水は、この時期のセントローレンス川の河口付近からセントローレンス湾にかけて、時として濃い霧を発生させる原因ともなり、航行する船舶の大きな障害にもなっていたのである。