俺はキウエモンに駆け寄って抱きついた。彼も嬉しそうに何度もうなずいている。
結局この日、イライザ号は三フィート海面に上昇できたが船底はまだ泥に浸かったままだった。キウエモンは全ての綱を二十六本の柱にしっかり固定すると、用意してあった二百五十個の四斗樽をイライザ号の船体に結び今日の作業を終えた。
その晩、「沈船三尺浮上」の明るい知らせが出島と奉行所を駆け抜けた。
次の日、六フィート浮上したイライザ号は翌々日にはついに船底が泥から離れた。
キウエモンは全ての丸太を取り払い、西漁丸に帆を取り付けた。そして西吉丸ほか数隻の大型漁船と一緒にイライザ号を船尾から引く態勢にはいった。さらにイライザ号の両側を帆を着けた三十二隻の漁船で挟んだ。漁船は舮をイライザ号の横腹に押し付け、まるでメザシのように横並びした格好になった。
それからが見せ物だった。
例によってキウエモンが神に捧げる踊りを舞う。奴は本当に幸運な男だ。不思議なことに彼が舞い終わる頃、絶好の南風が吹いてきた。キウエモンがさっと旗を振った。全ての船の帆が一斉に広げられる。イライザ号は半分ずっぷりと沈んだまま北の浜へ向けて動きだした。六百トンの船体は速度をあげ、まるで蟻に担がれたキャンディのように五百ヤードほど運ばれて、木鉢浦の浅瀬に到着した。ここまで来れば後は俺たちで出来るだろう。