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こうしてイライザ号は作業を開始して十七日目には浜辺に寄せられた。そこで船内の排水と積み荷の陸揚げを行い、引き裂かれた船底の修理を済ませた。無くなったマストは日本側の好意で肥前から松材が調達されることになった。二月二十日には一度下ろした荷の積み直しも終わった。もっとも溶けてしまった樟脳はラスが新たに買い足すことになった。

キウエモンが手を貸してから、ここまで僅か三十五日間のことである。もっとも彼は二ヵ月も前からこの計画と準備に手をつけていたのだろうが。

五月十日、イライザ号に新品のマストが立った。あとは風を待って出帆するばかりだ。

俺はラスと通訳を伴ってキウエモンを訪れた。サルベージの費用は払えないが、せめて何かお礼の品を贈ろう、とラスに相談すると、

「彼は最初からボランティアでやる、と申し出たのだ。ま、この秋にうちの船が来たら積み荷の砂糖を数籠もあげれば大喜びさ」

とうそぶく。だからオランダ人はケチと言われるんだ。俺は居たたまれず船に残っていた酒を手当たり次第かきあつめて手土産にした。キウエモンは故郷へ戻る支度をしていたが、俺たちを喜んで迎え入れた。

 

 

 

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