私はバリケードを強行突破する、とね。
それからの俺たちは急に忙しくなったよ。乗組員は二組に分けられ、一組はトランブル号の喫水線にそって太い錨綱を何重にも巻き付ける仕事を命じられた。残りの組は近くの町や村を回って、大きな樽を手当たり次第集めてくるように命じられた。俺は樽集め組だった。樽は大小二百個ぐらい集めたな。俺たちはその樽を全部川へ落とすと、水を詰めて栓をしてトランブル号の周りに運んだ。
次はその水樽をトランブル号の胴体に巻いた太綱に一個一個結びつける作業だった。二百個の樽は三日間かけてすべて結び終えた」
(俺を見るキウエモンの瞳が、強い好奇心で輝きを増してくるのがわかった)
「ハイマン艦長はその状態のまま、河口の敵の油断と潮の干満のタイミングをじっと待った。そして、ついにその日が来た。艦長は水樽の水を抜け、と命令した。俺たちは予め用意していた小型の排水ポンプを使って、二百個の樽から全て水を汲み出した。その時も艦長は水抜きする樽の順番が、船の前後左右均等になるよう、ずいぶん気を遣って指図したよ。水抜きはまた三日間を費やした。
それまで沈んでいた樽に空気が入って水面に浮かぶ。水面に顔を出す樽の数が増えるにつれて樽の浮力に助けられたトランブル号の喫水線も確実に上昇した。