幸い材木だけは豊富にあったから、仕事は順調に進んで翌年の夏、船は川岸から無事に進水して川に浮かび、名前もトランブル号と名付けられた。三本のマストが立ち、支索が張られ、何枚もの帆布が取り付けられる。大砲だけは他所の港に回航して載せる予定だから軍艦と言っても武装はないが、艦長が着任し俺たち大工は水兵に早変わりだ。
いよいよ海に乗りだすぞ、という時になって問題が生じた。その頃になると戦争の旗色が悪くなり、河口一帯はイギリス軍に封鎖されてしまった。奴らは船が川から出られないよう川底に多数の杭を打ち、そこに長い丸太を渡して浮橋みたいなバリケードを作ったんだ。バリケードは船で体当たりしても壊れないよう頑丈に出来ていた。もちろんバリケードの近くにはイギリス兵が見張っているから、うかつに近づく事も出来ない。これじゃあ俺たちのトランブル号は川から海へ出られない、まるで水たまりの中の魚同然だった」
「それで、どうなすったんで?」
(キウエモンが膝を乗り出して先を尋ねた)
「へへへ、それからが面白かったんだ。まあ、ちょっと喉を湿らせてくれ」
「これ、お蘭、すちゅわあとさんの杯が空いてるよ。お酒、お酒!」
(キウエモンが傍らの女に言い付けた)
「ああ、ありがとうよ、さて俺たちはトランブル号を川上の安全な場所へ移動させて敵の様子をうかがうことになった。そうよ、それから待つこと二年間だった。俺たち百五十人の乗組員が暇を持て余した頃、艦長が新しくハイマンという人に交替した。ハイマン艦長は俺たちを甲板に集めて、こう訓辞したんだ。