「安心しなよ」
俺はラスの肩を軽くたたいてからキウエモンにむかって話しはじめた。
「俺はウイリアム・ロバート・スチュワートという名前のアメリカ人だ。ラスの国は戦争で忙しくて船が足りない。それで代わりに俺の船が雇われて長崎に来たのさ」
「貴方の国は遠いのですか?」
尋ねるキウエモンの眼が輝いてきた。
「そうだよ。アメリカはオランダよりも遠いんだ。しかも、大西洋という大きな海を越えて来なけりゃならないんだ」
俺はキウエモンがあんまり熱心に聞いているのに気をよくして、自分の身の上話を聞かせてやることにした。
「俺が初めて船に乗ったのは十五の時だった。その頃、植民地だった俺の国は宗主国のイギリスと独立戦争をおっぱじめたんだ。相手は世界一の海軍をもってる国だ。アメリカには軍艦らしい軍艦は一隻もなかったが、俺の親父たちは凄い勢いで歯向かったものさ。
俺が乗った船は小さな私掠船(しりゃくせん)だった。
(タキチロが聞き返す)え?、私掠船って知らないのか?敵性国の商船を襲って船と荷物を奪う攻撃船のことだよ。早く言えば海賊さ。俺はその私掠船で炊事係や火薬運びをして働いたんだ。