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ピストンの放熱計算では、ピストン上面からピストンスカートに流出する熱量は360Kcal/hとなり、全体部位の中での寄与率は21%と極めて小さくする事が出来た。この計算によるとピストンリング溝付近の温度は250℃以下とする事が出来る。

 

尚、ピストンヘッドのFEM計算については、境界条件が解析図6.3、計算結果を解析図6.4に示すが、問題ない事を確認した。ピストンスカートのFEM計算については、境界条件が解析図6.5、応力計算値は解析図6.6、解析図6.7に示す。

 

(3) 副室からの放熱

燃焼室を構成する副燃焼室の熱管理は、極めて重要である。放散熱流を減少させると、ガス温度と壁面温度の差が小さくなり、全体温度が上昇する。副燃焼室は中央に副室と主室を仕切る副室制御弁を配置しているので、これら部品のサイズが小さい割に受熱面積が大きい。又、受熱期間は燃焼期間である上死点前後の90℃程度であるが、副燃焼室は袋小路的になっているので、空気の出入りが少なく、吸入空気によって冷却される事は少ない。従って、副燃焼室に伝達された熱によって副室全体の温度を余り上げずに、かつ放熱量を小さくしなければならない。

従来の研究では、同種の燃焼室材料を熱伝導率の小さな窒化珪素等を用いて放熱量を減少させたが、熱伝導率の減少では限度があるばかりか、その燃焼室部に摺動部材が存在するのでその部分の温度が上昇し摺動部の焼付が発生し、エンジン機能が低下する。即ち、全体の温度を余り上げずに、かつ、放熱熱量を極力小さくする設計が要求される。(図6.3)(写真6.3)

 

副燃焼室を主室であるヘッドライナーから分離させ、熱流を副室とシリンダーヘッドの取付部からのみ流れる様にし、受熱は燃焼室壁面と副室制御弁だけに限定した。

熱伝達率は燃焼の条件によって大幅に変わるが、ピストン主室とほぼ同一と仮定して、その数値を決めた。平均熱伝達率は、280Kcal/m2・hである。

以上の条件で放熱流量を計算すると、510Kcal/hとなり、ヘッドライナー上面に次いで、大きな放熱量となった。熱流の経路に遮熱構造を用いると、全体温度が上がるので、受熱部の面積を小さくする、又は、熱伝導率の小さいセラミックス材を燃焼室内壁にコーティングする等の対策を必要とする。

 

(4) シリンダーからの放熱

シリンダーは、主たる受熱部である上端部とピストンの摺動部である下端部を分割した。ピストンの爆発行程の中、後半ではシリンダー内の温度が低くなり、ガス圧力も小さくなるので、熱伝達率も小さくなり、その放熱量は小さい。計算によるとシリンダーからの放熱量は、91Kcal/hである。全体に占める割合は5%で、面積が大きい割にこの部位から放熱する量は少ない。

むしろ、シリンダーの温度を低く抑えるためには、ピストンヘッドとスカート、ヘッドライナーとシリンダーライナー部の遮熱を十分に実施し、これら熱流の大きい部分からの熱流入を防止することが重要である。

 

(5) まとめ

以上に、放熱熱量についての計算を実施し、設計に入ったが、部品の製造上の問題、材料特性の問題が有り、必ずしも開発前の構想通りに設計出来なかった。

 

 

 

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