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そこで、唐飛氏の辞任に伴い新たな内閣が発足いたします。陳総統は後任の行政院長を指名したわけですが、その人物が民進党の張俊雄氏であります。この人事が意味するものは、今後は民進党主導による政権運営が行われることが明らかになったといえることであります。現地では民進党による「全面執政」、すなわち民進党が全面的に政治の舵取りをとるというような言葉で表現されているところであります。

そしてまた台湾のメディアでは、この人事の交替を受けて「全民政府」、すなわち超党派内閣から「少数政府」へと代わったと評価されております。確かに、「全民政府」のシンボルであった唐飛氏が辞任し「陳唐体制」というものが崩壊したわけですから、こういった表現がなされるのは無理もないわけですが、しかし注意を要する点は、今回の内閣改造というのは人心の安定を図るという意味で小規模なものにとどまっていることであります。目立ったところでは経済政策の失敗を批判されていた大蔵大臣にあたる財政部長の許嘉棟が解任されたことなどがありましたが、国民党員の閣僚については、例えば新たな財政部長や、それから先ほどの林信義氏などもそうですが、国民党員が多く留任しておりますので、超党派内閣という枠組みは残っているのだということは確認しておく必要があるかと思います。

さて、このように新内閣が発足したわけですが、行政院長の張俊雄氏は就任直後から、執政の目標は政権の安定と経済発展であるという立場を非常に明確にしております。そしてまた、陳総統自身にも新内閣では経済方面の専門的な能力を強化したいという意向があったと報じられておりまして、今回の内閣改造はそれらの意向が反映されたものといえると思われます。

そのなかでもポイントといえるのは、行政院長、副院長それから秘書長という3人の人事ではないかと思われます。まず行政院長についてですが、これは台湾の政治史上初めて民進党の行政院長の誕生となったわけであります。張俊雄氏は、陳総統と非常に関係が深く、その信任も厚い人物であるといわれております。そして、今回の新政権発足後も当初は総統府の秘書長、それから7月末の水難事故の後には辞任した行政院副院長の後任として彼がこのポストを務めておりました。さらに、何よりも彼は1983年以来6期連続で立法委員に当選しており、17年間にも及ぶ議員としてのキャリアの持ち主であります。これまでに立法院内でも司法、内政、交通といった各委員会の責任者を歴任し、与野党に豊富な人脈をもっており、さらに調整能力にも優れているという高い評価が聞かれます。

 

 

 

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