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つまり、唐飛氏辞任ということになったわけですが、これについては原発問題が辞任の引き金になったのではないかというのが大筋の見方であります。と申しますのは、先ほども申しました通り民進党、それから陳総統が建設反対の立場をとっていたのに対して、唐飛氏は建設続行に対して賛成であることを明言していたからであります。そして、この建設反対というのは陳総統の選挙公約でもあり、また経済部も建設中止を進言しておりましたから、行政院としても最終的な判断を迫られていただけに、まさに原発問題が辞任の引き金になったのだろうという見方がなされたわけであります。

しかし、私自身は果たしてそうなんだろうかと思うわけであります。むしろ、陳総統はこのタイミングを利用して一気に方針転換といいましょうか、軌道修正を積極的に図ったのではないかと考えております。なぜなら、唐飛氏はこれまでも健康不安を理由に何度も辞意を表明しておりましたし、そしてまたいわゆる「陳唐体制」というものがどこまで続くのか、せいぜい来年末の立法院選挙までであって、彼はいわゆるつなぎ役であろうと目されていた部分もあったからです。

従いまして、こんなに早く辞任するとは考えられないまでも、ある程度唐飛氏の辞任というのは織り込み済みであったと思われますし、また陳水扁氏は心理的な準備はできていたという声も聞かれます。そして経済界の反応をみますと、この辞任を受けてさほど意外なことではないという反応を示しておりました。唐飛氏も首相就任受諾後に手術を受けたのですが、その後も高齢と行政院長の激務のため回復も思わしくなく、入退院を繰り返していたという状況が続いていたのであります。

そして、一方で陳水扁総統の発言をみますと、まずは9月16日に行った就任後4回目の記者会見で、非常に明確な形で福祉拡充よりも経済発展を優先させるということをすでに明言しております。また、唐飛氏の辞任を受け入れる前日にも、中小企業の代表たちと会見した際に、経済発展が絶対に新政権の第1の任務であると述べるとともに、現在の政治経済情勢というのは一時的なものである。乱れているようだが、そのなかに秩序があって、そのすべてを私は掌握しているといったような発言をしております。このように見ていきますと、陳水扁総統は実はこのタイミングを生かして、一気に福祉拡充から経済発展優先へという路線転換を図るとともに、また自らもより動きやすい形で、内閣をつくり変えたのではないかと思うわけであります。

 

 

 

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