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そしてまた産業界の側も、例えば先ほどの法定労働時間の短縮とか、あるいは公務員の週休2日制が可決されたことについて、それが民間部門にも波及し賃金上昇圧力が生じるのではないかということで不満を強めましたし、課税問題に対しても同様の対応を示したわけであります。

しかしながら、陳氏自身の支持率をみますとそれほど大きな変化がみられたとはいえません。『中国時報』という新聞の世論調査なのですが、3月末の段階で支持率が73%ありました。それが4月下旬には78%、そして就任直前には82%という非常に高い数字を記録しました。その後7月末に台湾中部の嘉義というところで水難事故が発生しまして、これに対する対応をめぐって世論の批判が高まりました。このときはさすがに61%に落ちているのですが、8月末になりますと、政局の混乱という点ではそれほど変化がなかったにもかかわらず、支持率はまた74%に上がっているわけです。陳氏には大変満足している、あるいはまあまあ満足しているといった数字が大きく下がるのは、実は唐飛首相の辞任直後の10月4日に行われた調査でありまして、ここでは43%という数字が出ております。

このような反応がみられたわけですが、政局の不安定が続く背景としましては、制度的あるいは構造的な背景があると考えられます。まず1つは、憲法の規定と少数与党の問題であります。第1に中華民国憲法の規定によりますと、総統は議会が行政院長の不信任案を可決した場合に、議会を解散することができるとなっております。したがって、そうならない場合は議会を解散できない。たとえ議会で政府案が否決されて、議会に対して不満があっても、総統は議会を解散して選挙に打って出るという形で局面の打開を図ることができないわけです。そして、民進党が少数与党でありましたから、政府案が否決されるという状況が起こるなど、国民党の思うがままという状態が続いたわけであります。

また、たとえ総統が行政院長の采配に対して不満があったとしても、唐飛行政院長を飛び越えて、閣僚を総統が直接指揮することもできないわけです。これは、憲法上行政院長が行政の最高の首長であると規定されているからでありまして、陳氏も思い切ったことができなかったということがあります。

そしてもう1つは、この規定とはちょっと離れるんですが、いわゆる「陳唐体制」においては、行政院長の唐飛氏、そして官房長官に相当する行政院秘書長の魏啓林という人物がいずれも国民党員でありました。

 

 

 

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