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そして、陳総統自身はかつて4年間台北市長というポストを務めたわけですが、98年末の市長選挙に敗れた後、わずかな時間を経てすぐに事実上の選挙戦に突入しておりました。このため、彼自身どれだけ準備ができたのか、また、その経験がどれだけのものだったのかという点でも、未知数の部分があったわけであります。

さらに、選挙の結果をみますと、台湾の総統選挙が相対多数制をとっていたこともあり、陳氏は39.3%という低い得票率で当選しております。それに、国会に相当する立法院をみましても民進党はいわゆる少数与党であり、このような事情が新政権に「全民政府」という対応を迫った要因として考えられると思います。

ちなみに、新政権発足当初の行政院の閣僚をみますと、42名のうち2部門を兼任している3人を考慮すると、国民党員が14名、そして民進党員が12名と国民党員の数が上回っておりました。ただし、総統府の方では、かつて陳水扁氏の台北市長時代に彼を支えた人たちが多く登用されており、民進党員の比率も増えているようではあります。

さて、このような新政権誕生のショックというものを緩和する試みは、就任総統におけるいわゆる「5つのノー」、すなわち、自分の任期中は独立を宣言しないとか、あるいは中国との関係は特殊な国と国との関係だという二国論を憲法には盛り込まない、などといったような形で非常に柔軟な姿勢を示したことも含めまして、それなりに成功したといえると思います。中国側も陳総統に対しては、その言動に注目するといった慎重な姿勢をとりまして、事態はひとまず沈静化しているのが現状であるといえます。

しかしながら、国内の政局に目を向けますと、その後の新政権の政局運営は決して順調ではないという状況にあります。政権発足後、間もなく5ヵ月がたとうとしているのですが、そのプロセスを振り返ってみますと、手詰まり感に満ちている、あるいは政局の混乱の度合いがますます深まってきたというような印象を受ける状況であります。政権内部では、特に財政、経済政策に関する閣僚の発言がバラバラでその足並みが乱れており、これに対しては経済界からも不信の声が上がりました。閣僚の勝手な発言が繰り返され、陳総統がそのあとから火を消して回るといったような具合でした。

そしてまた、立法院では、野党の国民党が過半数の議席を占めております。そのような状況の下で、国民党は数に頼んで思うがままに法案を通過させてきたといえます。例えば、法定労働時間の短縮という問題では政府案が否決されて国民党案が可決されるといったことがありました。

 

 

 

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